のべるちゃんチャレンジSP結果発表

《ストーリー部門》大賞
(賞状+のべるちゃん便箋+金券10,000円)

泡沫のオリア

作者名:ララ

のべるちゃん大賞

選評

奴隷の少年、ルソは森の中の屋敷で目を覚まします。ルソを介抱してくれた少女オリアは屋敷に一人で住まい、それはまるで噂に恐れられる魔女そのものですが、噂は噂。
本当はごく普通の可憐な少女のようで、本人もまた自分には何もできないと言います。そして、行き場のないルソに、屋敷で好きに過ごしてよい、と、まるで女神のように優しい手を差し伸べてくれるのですが……

……という導入から早速、プレイヤーは森の中のお屋敷で、本当に自由に過ごすことになります。
最初は意味もわからぬまま、とりあえず辺りを調べ、とりあえずオリアと語らい、そして思わぬ結末に唖然とするかもしれません。しかしそれはまだ序の口。物語の真相はさらにさらに深い闇の底に隠されて、並大抵のことでは辿り着くことができません。周回プレイを重ねて、ルソの、そしてオリアの抱える闇の底へ、プレイヤーは否応なしに引きずり込まれてゆくのです。

プレイヤーの予想を裏切る怒濤の展開、プレイすればするほど深まってゆく謎の数々。しかしながら、安易に雰囲気・考察モノに逃げず、全ての謎にきっちりと解答を用意する誠意とそれを実現する力量は、本作の闇の深さと同じく、底知れないものであると思います。
ヒロインであるオリアも魅力十分。ちょっと普通の子じゃない感じがたまりません。彼女のことをもっと知りたい!という気持ちが、スマホをタップする手をなかなか止めさせてくれないのです。

選考の中で、本作を評する言葉として「オーラがある」という言葉が度々飛び出していました。言語化できない領域、第六感に働きかける魅力のある作品だと言えます。
往年の名作フリーゲームと並んで一切見劣りしない、堂々たるオーラを放つ本作『泡沫のオリア』をのべるちゃんチャレンジSP ストーリー部門の大賞としてここに賞します。

《ゲーム部門》大賞
(賞状+のべるちゃん便箋+金券10,000円)

わたしのなかの勇者

作者名:四葉丸 柩吾

のべるちゃん大賞

選評

自分に自信が持てず、強いて言うなら物語を書くことが好きだが、それも中途半端、勉強にも身が入らない。そんな、何事にも本気になれずにいる少女、安藤ゆくえ。
物語は彼女自身と、彼女が空想する王国ノベルチヤの勇者たるクロトの物語がオーバーラップするかたちで進んでゆきます。

ゆくえが町を散策すれば、想像の中でクロトもノベルチヤを冒険します。クロトの目的はノベルチヤを脅かす『火くじら』を倒すこと。これはゲーム全体の目的でもあります。
探索ゲームとRPG的な戦闘がほどよい結合度で融合しており、ストレスなく遊ぶことができます。ヒントも充実し、戦闘に負けた際のデメリットもかなり控えめで、どのプレイヤーもエンディングまで辿り着けることでしょう。

探索パートはいい意味で力の抜けたテキストが冒険を彩り、戦闘パートではのべるちゃんのお作法にきっちり落とし込まれたコマンドバトルが手に汗握らせてくれます。
一見、ストーリー重視の作品に見えてしまう本作ですが、それはゲーム要素が極めて高い完成度で、作品全体の体験に自然に溶け込んでいるから。作者の高い技量をひしひしと感じます。

クロトの数々の冒険は、言ってしまえばゆくえの現実逃避でしかありません。
しかし、空想の中のクロトは、やがてゆくえにも影響を及ぼします。ゆくえもまた冒険をしているのです。
創作によって自己を確かめ、先に進んでゆく、若い作り手の物語は、読み手の胸に温かいものを残してくれます。
物語をつくるすべての人にプレイして欲しい珠玉の一作として、『わたしのなかの勇者』を、のべるちゃんチャレンジSP ゲーム部門の大賞としてここに賞します。

ユーザー賞
(賞状+のべるちゃん便箋+金券10,000円)

泡沫のオリア

作者名:ララ

のべるちゃん大賞

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《ストーリー部門》優秀賞
(のべるちゃん便箋+金券5,000円)

作者名:Awak

のべるちゃん大賞

選評

主人公である新聞記者の「ハルトマン」が戦争で故郷を追われた少女「メメ」と引き合わされるところから物語は始まります。
メメはハルトマンの故郷の国で自らの体験を語るスピーチをすることが決まり、メメをスピーチ会場まで送り届けるまでの出来事を中心に物語が展開していきます。

他の作品とは異彩を放つリアルな筆致、シルエットのみで描かれるキャラクター達によって淡々と描かれる物語。
アニメ・マンガ色を作品内から排除することに成功しており、その鮮やかな筆致は、まるで実写映画を観ているよう。
テキストの一文一文に妥協がなく、控えめの演出効果がそれをさらに引き立てていて、往年のサウンドノベルを思わせる完成度があります。

もしこの作品に、華美な演出が付き、探索要素が付き、映像・ゲーム的なアプローチが盛り盛りな作品だったら、どうなっていただろうと考えてみました。
作者の実力は保証付きですから、きっとそれはそれで素晴らしい作品に仕上がり、きっと同じく受賞作に食い込んできたのだろう、と思います。
しかしながら、文章を主役としたつくりでなければ、このなんとも言えない読後感、一年後にもふと思い出すような爪痕を残す作品にはなりえなかったのかな、とも思うのです。
(そして、この効果までも読み切って表現形態を選んだであろう作者の技量にも改めて唸らされた次第です)

文章力での一点突破を見事やりとげた本作。この種の作品にしか持ちえない魅力で、審査員一同の心をがっちりと掴んでくれました。
読み物としては正統派、今日ののべるちゃん作品としては異端派、なんとも奥深い、この『鯨』を、ここに優秀賞として賞します。

《ゲーム部門》優秀賞
(のべるちゃん便箋+金券5,000円)

泡沫のオリア

作者名:ララ

のべるちゃん大賞

選評

ストーリー部門にて大賞に輝いた本作ですが、なんとゲーム部門でも優秀賞に輝きました。
作品全体の選評はストーリー部門の選評にて延べたとおりですが、こちらではゲーム部分にて語りたいと思います。

この作品のゲーム要素は「探索」と「選択肢」を主にできていますが、これらの難易度調整の適切さが極めて好印象でした。
本質的に失敗のペナルティが存在せず、何回でもリトライ可能な構造は、魔女オリアの秘密を暴くための数知れない再挑戦にも前向きでいることができます。
システムの触り心地も上々で、「選択肢」はともかく、「探索」のパートでものべるちゃんのシステムでできることの中で無理をしておらず、直感的な探索を楽しめます。

物語の真相と謎解きの解答が一目にはわからないようにうまく散りばめられており、ヒントを探そうと四苦八苦しているうちに同時に物語の全貌もうっすらとわかってくる作りにも嫌みがありません。このような作りのゲームは世の中にも多くありますが、その中でも本作はプレイヤーに与える情報の絞り込み方が上手く、説明不足と説明過多の間のスイートスポットをしっかりとらえているように感じます。

オリジナル素材の織り交ぜ方も上手く、アセットを節約しつつも既存ののべるちゃん作品と一味違う雰囲気。新鮮な気持ちでプレイすることができました。
総じて「体験のトータルコーディネート」が極めて緻密で、一部の「メモ必須要素」も自然な流れで取り組むことができ、理不尽には感じなかったのです。
最初は行動できる範囲も狭く、無限にも思えるほど広く感じる魔女の館ですが、周回しているうちにまるで自分の家のようになってくる、そんな感覚もまた楽しいものでした。

ストーリーが面白いからゲームも楽しめたし、ゲームが楽しかったからストーリーも面白いと思うことができた。どちらかがいまいちであれば、体験の質は大きく変わっていたことでしょう。
であるからして、この『泡沫のオリア』がゲーム部門でも優秀賞に輝いたことは、何も不思議なことではないのかもしれません。

《ストーリー部門》新人賞
(のべるちゃん便箋+金券5,000円)

願いの行末

作者名:ななし

のべるちゃん大賞

選評

親を交通事故で亡くして叔父叔母夫婦に引き取られ、アメリカの病院で暮らす盲目の少年「那由多」。
夜中の病院でだけ出会える不思議な友達「セラ」の正体は、魂を狩りに来た死神で——病弱な少年と死に神の美青年が織りなすラブストーリー。全体に漂う危険な香りが魅力的です。

奔流のごとく押し寄せるふんだんなオリジナル素材とフェティッシュあふれる妖しい雰囲気がこの雰囲気を非凡たらしめています。
作者がこの作品を通して、自分のやりたいことをめいっぱい表現している——そんな作品しか持ちえない、「かがやき」が、とてもとても眩しい、そんな作品でした。

死神の正体、そして彼らを使役する「スヴァル」がどんな目論見を抱えているのか。スヴァルの邪悪な願いは果たして叶ってしまうのか…。
このような大きな設定が存在する世界観の物語はハンドリングが極めて難しくなりがちで消化不良になってしまいやすいのですが、那由多とセラ、二人を取り巻く小さな世界に描写を限定することで、違和感なく大きな風呂敷を畳み終えるという離れ業をしれっとやり遂げる業も光ります。

それだけではなく、テーマである『神頼み』に対するフォローも万全で、感動のグランドフィナーレまで、きっちり連れていってくれます。
これだけの熱量を注ぎながら、それが暴走せずにしっかりまとまっている、これは誰にでもできることではありません。
冷静と情熱のあいだを一息に走り抜けた、作者の類い稀な才能が光る『願いの行末』。ストーリー部門の新人賞作品として、ここに賞します。

《ゲーム部門》新人賞
(のべるちゃん便箋+金券5,000円)

祈りの勇者と魔女王の城

作者名:木賊ver.2

のべるちゃん大賞

選評

主人公である「祈りの勇者」が、見知らぬ男に連れられ、ある国を支配する魔王の元へ向かう……という導入から物語は始まります。
一見ありがちな冒頭ですが、「祈りの勇者」というワードがプレイヤーの興味をがっちりと掴んできます。祈りの勇者は剣でも魔法でもなく、祈りによって状況を打破する、まさに「神頼み」のプロフェッショナルというわけです。探索パートでも戦闘パートでもとにかく祈ってばかりで、祈りの勇者の名前は伊達ではありません。

今回のテーマである「神頼み」をこのように打ち返す発想力だけでも賞賛ものですが、ゲーム要素の核である探索パートのクオリティもまた同じくらいに賞賛されるべきレベルに仕上がっています。

特に、プレイヤーの選んだ選択肢に対してのダイアログが非常に充実しており、ゲームの世界がプレイヤーに応えてくれる感覚がこの作品への没入感を一層高めてくれるように感じました。長くはない尺の作品ですが、密度は長編顔負け。「濃さ」は、今回の応募作品の中でも随一ではないでしょうか。

物語にもスクリプトにも手抜きがなく、両者が高い次元でまとめ上げられている。その完成度の高さは、「優秀賞」としてこの作品を推すのに十分な理由であると判断しました。

《ストーリー部門》佳作
(のべるちゃん便箋)

選評

祈りと聖水で悪魔を祓う聖職者「エクソシスト」のいる世界。
主人公である少年「ノア」はいざ悪魔を前にすると、悪魔を祓うことができないという悩みを抱えたエクソシストの少年です。
ある日、ノアが出会った、人を襲わない、ノアと同じように感じ、話し、そして孤独に苦しむ悪魔の少女「リゼット」だった——。

あらすじから既によきファンタジーの予感への期待が高まりますが、その期待に完全に応えてくれる完成度の高さが、本作の素晴らしい点です。
どこを切っても「ここはちょっと……」という点がひとつもなく、誰にでも安心してお勧めできる一作です。

ところどころに挿入される演出も、華美ながら読むテンポを決して損なわないように配慮が行き届いていると感じました。
読者に集中力を絶やさないままエンディングまで一気に読み切らせる作者のバランス感覚に拍手を送ります。

教会の教えと、自らが目にした現実の狭間で葛藤するノアの優しい心は、読む人の心を打つことでしょう。
また、特に物語後半の怒濤の展開のスピード感はすさまじく、一瞬たりとも目が離せません。

王道をこれ以上なく見事にやりきった「異端のエクソシスト」を、ストーリー部門の佳作として賞します。

選評

さまよえる幽霊「ユカリ」と、ユカリを救済するために現れた妖精「ベル」。二人(?)が、少年「ツバキ」とその周りの人々を見守り、導いてゆく、そんなお話です。
とにかく登場人物のひとりひとりが魅力的で、決して長くはない物語の中でそのキャラクターの魅力や見せ場をしっかり用意する丁寧なストーリーテリングが素晴らしいです。

主人公たるユカリは当初、自我すらあいまいなほどに人間性を喪失した悪霊ぎりぎりの存在なのですが、ベルやツバキらに触れて人間性を取り戻してゆく過程の描写がとても丁寧で、孤独からの再生の物語は胸にじんわりと響きます。

また、特筆すべき点として「不安」の扱い方がとても巧みだと感じました。「何だか悪いことが怒りそうな予感がするな」という伏線は物語の引きとしてとても有効ですが、あまり放置しすぎると忘れられてしまうし、そして大きすぎても何だか読み進めるのが辛くなってしまいます。
ぼんやりとした不安に少しずつ形を持たせ、ていねいにていねいに膨らませて、最高のタイミングで起爆させる——「言うが易し行うは難し」なテクニックですが、本作はこのテクニックを巧みに使いこなし、読者の注意を決して離しません。

物語のクライマックスで語られるメッセージはまさに直球ですが、決して陳腐になっていないのは、登場人物たちがその考えに至るバックグラウンドをしっかりと描けているから。

卓越したキャラクター描写と緻密なプロット、そして胸を熱くする人生へのエール。こんなご時世だからこそ読みたい物語「夢見る花」をストーリー部門の佳作として賞します。

《ゲーム部門》佳作
(のべるちゃん便箋)

選評

皆さんは「チンチロリン」というゲームをご存知でしょうか。ざっくり言うと、三つのサイコロを振り、その出目で役を作って点数を競い合う……という、お椀とサイコロだけで遊べるシンプルな遊びです。

この「CHINCHIRORIN」は、なんと、「のべるちゃん上でチンチロリンを再現してしまいました!」という、誰もの予想の斜め上を音速ですっ飛んでゆく発想によって作られたゲーム作品です。
ゲーム性としてはランダムな出目に身を任せるだけであるために、ともすれば単調な体験になってしまいがちにも思われますが、ドット絵のかわいらしいルック、高得点の役が出来た際の演出などが花を添えてくれるので、何だかんだ楽しく手に汗握り、いい役が出てくれることを「神頼み」する体験ができることでしょう。

超古典とも言える運試しゲームを、今風のピクセルアートと熱い演出でリフォームした温故知新の一作「CHINCHIRORIN」を、ここに佳作として賞します。

選評

本格カードバトルが、遂にのべるちゃんに登場!!!

本作を一行で説明すると、このような説明になるでしょうか。お互いのターンにカードを引き、モンスターを召喚。攻撃表示にしたり守備表示にしたり……効果を発動したり……「あの」カードゲームを彷彿とさせる熱いバトルが楽しめる一作です。

パロディ元を隠そうともしない潔さもさることながら、パロディ元にも負けない「熱さ」が本作品の見所。
のべるちゃんで可能な演出を知り尽くした作者の技量が遺憾なく発揮された華美なバトルエフェクトは、あなたの決闘者魂を否応なしに盛り上げてくれることでしょう。
もちろんゲーム部分にもぬかりはなく、難易度調整やBGM選択、果てには二人対戦など、楽しめる要素がたっぷり詰まっています。

まさかのバトルカードゲームを通して、のべるちゃんの限界に挑んだ渾身の一作『決☆闘☆王 〜デュエルキング〜』を、ここに佳作として賞します。